以外と知らない越境ECの税金ルール|関税・VAT・免税の基礎を一から学ぼう

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越境EC 税金ガイド

海外販売を始めたけれど、「関税」と「VAT」と「免税」の違いが曖昧…そんな方も多いのでは?
実は、この3つを正しく理解していないと思わぬコストやトラブルにつながることも。
この記事では越境EC初心者にもわかるように丁寧に解説します。

輸出者が知るべき2つの税金

🛃

関税 (Customs Duty)

輸入国の産業保護などを目的に、物理的な「物品」に課される税金です。HSコードに基づき税率が決まります。

🧾

付加価値税 (VAT)

日本の消費税に相当し、「物品」や「デジタル商品」の消費に対して課されます。原則、免税はありません。

関税率決定の基盤:HSコードの理解

HSコードとは、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized System)」の略称で、国際貿易で取引されるあらゆる商品を、固有の番号で分類するための世界共通のルールです。

世界税関機構(WCO)によって管理されており、輸出入の申告時に、その貨物が「何であるか」を世界中の税関が正確に、かつ効率的に把握するために使われます。貿易における「世界共通言語」とも言えます。

国際標準 (HSコード)

🌍

6桁

世界共通の品目分類の基本コード。

各国の独自分類 (国別コード)

📍

7桁目以降で各国が詳細を決定

【米国独自の例外】

米国は独自の10桁のHTSコード (Harmonized Tariff Schedule) を採用しており、これが最終的な関税率を決定します。

税金決定の鍵:コマーシャルインボイスの役割

関税とVAT(消費税)は、輸入国の税関がコマーシャルインボイスに記載された情報に基づいて計算します。正確な申告が不可欠です。

📦

① HSコードと製品

コマーシャルインボイスには、正確な製品名とHSコードを記載する必要があります。税関はこのコード(例: 9507.90)に基づいて関税率を特定します。

💰

② 輸出申告額(商品価格)

申告された商品単価と合計価格は、関税のデミニミス判定(免税のしきい値超えかどうか)や、課税基準額(CIF価格)の計算に直接使用されます。

🚚

③ 送料(Freight Charges)

関税・VATの課税基準となるCIF価格は、商品価格に送料と保険料を合算して算出されます。送料の申告も必須です。

【税金決定のフロー図】

(HSコードで得た関税率)を(課税基準額)に適用 + VAT率

製品価格 + 送料 = 課税基準額 (CIF) 関税/VATの算定

関税の仕組みを解読する

支払い義務者は誰? DDP vs DDU

関税をどちらが負担するかは、輸送条件(インコタームズ)で決まります。顧客体験向上のため、DDPが主流になりつつあります。

DDP (関税込み)

⬇️

輸出者(あなた)が日本の時点で運賃と関税をまとめて支払い。顧客は商品を受け取るだけ。

😊 顧客満足度が高い

DDU (関税抜き)

⬇️

顧客が商品を受け取る際、配送業者に関税を支払う。追加請求に驚かれる可能性も。

😥 予期せぬ請求に繋がる可能性

関税が免除されるケースは?

多くの国では、少額貨物に関税を課さない「デミニミス制度」があります。この基準額(しきい値)は国によって大きく異なります。

【重要情報:米国デミニミス撤廃】

アメリカ合衆国は、2025年8月29日にデミニミス制度 (800米ドル) を撤廃しました。これにより、原則として、全ての越境EC貨物に関税が課税されることになります。

主要国別デミニミス値一覧(関税免税閾値)

各国のデミニミス値を知ることで、関税を顧客に請求するかどうかを事前に判断できます。この値は関税の免税閾値であり、VAT/消費税には適用されません。

国名 関税 デミニミス値 備考
アメリカ合衆国 撤廃 (800 USD) 2025年8月29日に撤廃。原則すべて課税対象。
イギリス (UK) 135 GBP 135 GBP以下は関税免除。VATは常に課税。
EU加盟国 150 EUR 150 EUR以下は関税免除。VATは常に課税。
オーストラリア 1,000 AUD 物品の価値が低い場合は免税。
シンガポール 400 SGD 400 SGD以下の輸入は関税・GST免税。
カナダ 20 CAD 関税免税額は低め。
中国 (中華人民共和国) 0 CNY (原則) 越境ECでは厳格な制度が適用。
インド 0 INR (原則) 全ての輸入貨物に関税・GSTが課税される可能性が高い。
イスラエル 75 USD
日本 10,000 JPY (商業貨物) 個人輸入の例外あり。商業貨物として計算。
韓国 150 USD
マレーシア 500 MYR
メキシコ 50 USD
ニュージーランド 1,000 NZD オーストラリアと同様に高め。
ロシア 200 EUR 重量制限 (31kg) との複合ルール。
スウェーデン 1,600 SEK
台湾 2,000 TWD
ブラジル 0 BRL (原則) 個人間取引の免税ルールあり。

VATの原則:原則免税なし

VATは消費に対する税金

VATは、商品やサービスが最終的に消費される国で課税されるのが原則です。そのため、関税のように少額だから免税、ということは基本的にありません。たとえ100円の商品でも、輸入国のVATが課税対象となります。

近年、EC事業者が販売時にVATを徴収し、輸入国へ直接納税する仕組み(販売時徴収)が国際的な標準になりつつあります。

VAT徴収方法のトレンド

ケーススタディ1:日本から英国 (UK) へ12,800円のスニーカーを輸出

HSコードとDe Minimisを適用し、最終的な顧客負担額を判定するプロセスを見てみましょう。(12,800円 = 71.11 ポンド換算)

商品価格 (ポンド)

71.11

品目コード

HS 6404.11

英国 VAT

20%

STEP 1: 関税の判定(De Minimis制度)

※計算を単純化するため、送料は0と仮定します。

商品価格 (ポンド)

71.11

V.S.

UK De Minimis しきい値 (ポンド)

135

判定: 71.11 < 135 のため → 関税は免税 (0 ポンド)

STEP 2: VAT(付加価値税)の計算

VATは原則免税されないため、標準税率 20%が適用されます。

課税対象額 (ポンド)

71.11

×

VAT率

20%

結果: VAT金額 = 14.22 ポンド

EC事業者が顧客から徴収すべき税金

関税 0 ポンド + VAT 14.22 ポンド

ケーススタディ2:日本からカナダへ (CA) 30 カナダドルの抹茶チョコレートを輸出

カナダはデミニミス値が低く、関税・GSTが課税される可能性が高いケースを見てみましょう。

商品価格 (CAD)

30.00

品目コード

HS 1806.90

関税率 / GST率

6% / 5%

STEP 1: 関税の判定(De Minimis制度)

※計算を単純化するため、送料は0と仮定します。

商品価格 (CAD)

30.00

V.S.

CA De Minimis しきい値 (CAD)

20

判定: 30.00 > 20 のため → 関税が課税 (税率 6%)

STEP 2: 関税およびGST(付加価値税)の計算

GSTは「商品価格 + 関税」を課税ベースとするため、関税を先に計算します。

関税計算: 30.00 (CAD) × 6% = 1.80 CAD

GST課税ベース: 30.00 (価格) + 1.80 (関税) = 31.80 CAD

GST計算: 31.80 (課税ベース) × 5% = 1.59 CAD

EC事業者が顧客から徴収すべき税金

関税 1.80 CAD + GST 1.59 CAD = 合計 3.39 CAD

ケーススタディ3:日本からアメリカ (US) へストリーミングサービス(動画や音楽配信)を輸出

物理的な「物品」ではなく、無形の「デジタルサービス」のケースを見てみましょう。

商品タイプ

デジタルサービス

通関

不要

関税

0%

結論:関税(Import Duty)は一切かからない

関税はあくまで「物理的なモノ (Tangible Goods)」に課される税金です。

ストリーミングサービスは無形財(Digital Service)に分類されるため、アメリカでは輸入関税が発生しません。

ただし注意点:別の税金と規制

1. 売上税 (Sales Tax) / デジタルサービス税

州や都市によっては、海外事業者に対してもデジタルコンテンツへの売上税(日本の消費税に近い)が課される場合があります。(例: ニューヨーク州、ワシントン州など)

2. 源泉徴収税 (Withholding Tax)

ストリーミング利用料がロイヤリティ収入と見なされる場合、日米租税条約に基づき、源泉徴収税の適用対象となることがあります。

税務上の結論

関税 0 USD。ただし、州ごとの売上税に要対応。

大きな違い:「物品」と「デジタル商品」

物理的な国境を越えるかどうかで、税金のルールは全く異なります。

項目 物品 (Tシャツ、雑貨など) デジタル商品 (ソフト、電子書籍など)
関税 課税対象 (De Minimis制度あり) 非課税
HSコード 必要 不要
VAT / 消費税 課税対象 課税対象
適用ルール 輸入通関ルール 電気通信利用役務の提供ルール

デジタル商品のVATを簡素化するOSS制度

OSSの目的と仕組み

デジタル商品(電子書籍、ソフトウェア、ストリーミングサービスなど)は、「電気通信利用役務の提供」として、顧客が居住するEU加盟国のVATが課税されます。このため、従来は販売先の国ごとにVAT登録が必要でしたが、OSS(One Stop Shop)を利用することで、この手続きを大幅に簡素化できます。

【OSSの核】

EU内の一つの加盟国で登録するだけで、全EU加盟国への売上に対する VAT を四半期に一度、まとめて申告・納税できます。これにより、複数の国での税務管理が不要になります。

OSSとIOSSの違い

OSSは主にデジタルサービスや役務の提供に適用されます。これに対し、物理的な低額貨物(150ユーロ以下の物品)をEU域外から輸入する際のVATを販売時に徴収するための制度はIOSS(Import One Stop Shop)と呼ばれ、仕組みは似ていますが適用対象が異なります。

🇯🇵

日本の事業者

EU各国へのデジタル商品を販売

➡️
🏢

OSSポータル

(EUの一カ国で登録)

VAT申告と納税を一括で実施

➡️
🇪🇺
🇩🇪 🇫🇷 🇮🇹 🇪🇸 🇳🇱 …他

各国へ VAT が自動的に分配

VATコンプライアンス:申告が必要なケースと対策

VAT(付加価値税)は、販売先の国で消費される商品・サービスに課税されるため、海外の消費者向けに越境ECを行う場合、原則として販売先の国ごとに申告が必要になります。

VAT申告が必要となる主なケース

  • EU・イギリスの消費者への販売: 日本のEC事業者が直接、EUやイギリスの消費者へ商品を販売する場合。
  • 海外への倉庫保管: AmazonのFBAなどの倉庫サービスを利用して商品を海外に保管・発送する場合、その国での VAT 登録が必要になることが多い。
  • 海外へのデジタルコンテンツ販売: 電子書籍、ソフトウェア、オンラインサービスなど、デジタルコンテンツやサービスを海外に提供する場合。

※ VATのルールは国・地域によって異なり、頻繁に改正されます。

EUにおけるVAT申告の主な方法 (2021年7月以降)

1. OSS (One Stop Shop) 制度

概要: EU域外の事業者(デジタルコンテンツ販売など)が、単一の窓口でEU全体のVAT申告と納税ができる制度。

メリット: 複数の国でのVAT登録が不要になり、事務手続きが簡素化。

2. IOSS (Import One Stop Shop) 制度

概要: 150ユーロ以下の物品をEU域外から消費者へ販売する際に、EC事業者が販売時にVATを事前徴収するための制度。

メリット: 購入者が商品受け取り時に税金を支払う手間がなくなり、顧客体験が向上。

従来通りの申告: OSSやIOSSを利用しない場合、販売先の国ごとにVAT登録を行い、現地のルールに従って申告・納税する必要があります。

越境EC事業者が取るべき対応

① 取引内容の確認

どの国に、どのような商品を、どのような方法で販売しているか(現地倉庫利用の有無、販売チャネルなど)を整理。

② 制度の選択と専門家への相談

EU向けであればOSS/IOSSの利用を検討し、各国税制の複雑さから専門の税理士や代行業者へ相談する。

本資料は一般的な情報提供を目的としており、税務アドバイスを構成するものではありません。

具体的な取引については、必ず税務専門家にご相談ください。

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